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大阪地方裁判所 昭和53年(わ)5338号 判決

本店所在地

大阪府吹田市山田市場一六番一号

株式会社文商堂

(右代表者代表取締役 米田正司)

本籍

東京都北区赤羽西四丁目二〇二番地

住居

大阪府吹田市山田市場二六番一号

会社役員

米田正司

昭和二二年一二月二四日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官鞍元健伸出席のうえ、審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人株式会社文商堂を罰金一、〇〇〇万円に、被告人米田正司を懲役一年に、各処する。

一  被告人米田正司に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

一  訴訟費用は、被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社文商堂(以下「被告会社という。」)は、大阪府吹田市山田市場一六番一号に本店を置き、週刊誌、月刊誌及ぴ書籍の卸販売を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人米田正司は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統轄しているものであるが、被告人米田正司は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、公表経理上売上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五五年一二月一日から同五六年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得全額が二三六九万五〇一一円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五七年二月一日、大阪府茨木市上中条一丁目九番二一号所在の所轄茨木税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一八七万九四三一円でこれに対する法人税額が四七万五〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額八九〇万三二〇〇円と右申告税額との差額八四二万八二〇〇円を免れ、

第二  昭和五六年一二月一日から同五七年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七八三九万八二〇三円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五八年一月三一日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一〇五万六四五二円でこれに対する法人税額が二八万六〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三一九三万六三〇〇円と右申告税額との差額三一六五万三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人米田正司の当公判廷における供述

一  同被告人の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の同被告人に対する各質問てん末書五通

一  証人植村興一郎、同宮内直紀、同米田啓子の当公判廷における各供述

一  米田啓子の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の米田啓子(一四通、昭和五八年五月一七日付けは、問一、六、七の各答を除く。)海野秀雄、松下良明、西馬澄、山本滋夫。宮内直紀(二通)、中森光子、肥田信夫(四通)に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官報告書二通

一  収税官吏作成の写真撮影てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書九通

一  被告会社作成の法人税確定申告書謄本二通

一  大阪法務局吹田出張所登記官作成の法人登記簿謄本

一  収税官吏作成の脱税額計算書二通

一  押収してある店売上げを記載したノート三冊(昭和五九年押第一五七号の1)、レジペーパー等一綴(同押号の2)、送品帳一七冊(同押号の3)、レジペーパー等一一枚(同押号の4ないし7)、請求書、領収書一綴(同押号の8)、56年分領収等一箱(同押号の9)、領収証等八綴(同押号の10)、請求書等一束(同押号の11)、売上帳一綴(同押号の12)、営業日報等一綴(同押号の13)、納品書控一綴(同押号の14)、売上伝票一枚(同押号の15)、支店別現物記録四綴(同押号の16)

(弁護人らの主張に対する判断)

弁護人、被告人らの争う争点についての当裁判所の判断の要旨は、以下のとおりである。

一  商品の簿外仕入について

弁護人は、検察官主張額以外にオリエントプレスあるいはニューオリエントからビニール本のうちいわゆる表本の簿外仕入が一期四八二万二六七四円、二期二八六万八八〇三円存した旨主張する。

証人米田啓子及び被告人米田正司の当公判廷における各供述は、右主張に副うものであるが、表本を簿外仕入とした理由は明確でなく、又その理由と簿外仕入開始の時期が符合せず、全体として説得力があるものとはいい難い。

他方、収税官吏の同女らに対する各質問てん末書及び同女らの検察官に対する各供述調書によれば、販売を禁止されている裏本については警察の手入れを予想して簿外仕入れとしたが、その他のものについては公表計上した旨を供述しており、その理由は極めて合理的であり、説得力に富むものと考えられる。

次に仕入れ先であるオリエントプレスの関係者の供述を検討するに、収税官吏の海野秀雄、松下良明に対する各質問てん末書によると、オリエントから被告会社への商品の納入は、文商堂又は吉田名義で行なっており、それ以外に簿外の納入は存しないことを明確に供述している。しかも収税官吏作成の昭和五八年五月一九日付け査察官調査書及び収税官吏の山本滋夫に対せる質問てん末書等によると、吉田名義で仕入れた商品は、いずれも被告会社からマガジンショップドリームに納入されていることが認められる。

又押収してある店売上げを記載したノート三冊(昭和五九年押第一五七号の1)、56年分領収書等(箱とも)一箱(同押号の9)、売上帳一綴(同押号の12)、納品書控(ファイルとも)一綴(同押号の14)等によると昭和五六年九月から昭和五七年三月までの上代価格一二〇〇円、二三〇〇円、一五〇〇円、二二〇〇円、二八〇〇円、三二〇〇円、三八〇〇円のビニール本の実際売上冊数と公表仕入冊数とは別紙(三)のとおりとなる。収税官吏作成の査察官調査書(証拠等関係カード検察請求分番号11)によると期末棚卸高は一期四九七万四〇八〇円、二期三三四万四八五〇円と減少していることが認められる。

仮に、弁護人主張のように表本についても月八〇万円ないし一〇〇万円の簿外仕入れが存したのであるならば、前記各上代価格のビニール本についても、実際売上冊数が公表仕入冊数を大きく上回る筈であるが、前認定のとおり両者の間には殆んど差異は生じていない。

次に前記「店売上げを記載したノート」三冊によると店頭売上分について、ビニール本、サービス本とその他に区分することができ、ビニール本、サービス本の各月分売上額は別紙(四)のとおりである。そこで、店頭売上分中ビニール本等については原価率四五%、その他については原価率七七%で、スタンド売上分については原価率七七%で各々の原価を計算すると別紙(五)のとおりとなる。(ビニール本の原価は、表本四五%、裏本三八ないし四〇%であり、サービス本の原価は四五%であるので、ビニール本等の原価率を四五%として計算すると、実際の原価よりはやや高い数字が算出される。又スタンド売上についても、その中にはビニール本の売上も存するので、原価率を七七%として計算すると、実際の原価よりはやや高い数字が算出されるが、その反面、二期のスタンド売上分についつは、各スタンドの営業権を譲渡しているので、実際の原価は、七七%の計算による算出額よりいく分高くなる筈である。)

これによると、店頭売上分の原価率は、一期四九・三六%、二期五七・六一%となり、被告人米田の原価率は一期六〇ないし六五%、二期五五ないし六〇%である旨の当公判廷における供述は、この客観的証拠と矛盾齟齬することが明らかである。

以上の点を総合考慮すると証人米田啓子及び被告人米田の簿外仕入に関する当公判廷における供述は、客観的証拠及び仕入れ先の関係者の供述と矛盾し到底措信し難い。他方、収税官吏の米田啓子に対する各質問てん末書及び同女の検察官に対する供述調書は、これらの証拠とよく符合し、十分信用するに足るものと解する。

従って、弁護人の右主張は採用しない。

二  サービス分の仕入について

弁護人は、被告会社は昭和五六年三月頃から顧客に対して買上冊数一〇冊につき一冊の割合でビニール本をサービスとして提供し、後には一定の割合で売上金額を割引いていたのであるから、これに相応する仕入を計上すべきであると主張する。

前掲証拠の標目記載の各証拠を総合すると、ビニール本のうち裏本については、被告会社において在庫管理を十分行なっており(このことは、収税官吏の中森光子に対する質問てん末書からも裏付けられるところである。)顧客のサービスの用に供したのは主として月刊誌等であって、裏本は含まれなかったものと認められ、右認定に反する被告人米田の当公判廷における供述は措信し難い。

次に前記ノートに基づいて認定される店頭売上額は、被告会社が商品の販売により実際に取得した現金高を集計したものであって、サービス分は既に差引かれており、右売上高には含まれていないものと認められる。

従って、簿外で仕入れた裏本がサービスに供されていない以上、サービス分について改めて仕入を計上する必要は全く存しない。弁護人の主張は理由がないので採用しない。

三  商品、現金の紛失分について

弁護人は、商品、現金の紛失として一期四三〇万円、二期五五五万円を損失として計上すべきであると主張する。

そこで検討するに前記二で認定したように、裏本の管理はかなり厳重になされており、収税官吏作成の査察官報告書、写真撮影てん末書により認められる被告会社の店舗のレイアウトから考えても展示中の裏本を盗むのは困難であることが認められ、裏本の盗難は存しなかったものと解するのが相当である。

その余の商品の盗難については、これを否定するに足る証拠は存せず、書籍の小売業という業態から考えても、一部盗難が存したものと認めるのが相当であるが、いずれも既に仕入れが公表計上されており、再度損失として計上すべきものではない。

更に、現金の紛失分については、前記二のとおり、もともと売上高に計上されていないのであるから、これらを損失として計上する必要性は全く存しない。

以上の次第であるから、弁護人の主張は、いずれも採用しない。

(法令の適用)

被告人米田正司の判示各所為は、法人税法二五九条一項に、各該当するので所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は、刑法五五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人米田正司を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項によりこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

被告人米田正司の判示各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一〇〇〇万円に処することとする。

訴訟費用については、刑事訴訟法二八一条一項本文、二八二条により被告人両名の連帯負担とする。

よって、主文のとおりとする。

(裁判官 金山薫)

別紙(一)

修正損益計算書

自 昭和55年12月1日

至 昭和56年11月30日

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

自 昭和56年12月1日

至 昭和57年11月30日

〈省略〉

別紙(三)

〈省略〉

別紙(四)

ビニール本、サービス本の各月別売上額

〈省略〉

別紙(五)

〈省略〉

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